2.13〜19日記

2.13月
朝から普通に労働。特筆すべきことはなし。

2.14火
朝から普通に労働。出勤途中、新宿三丁目の地下道がまた水浸しになっていて、黄色いビニールテープが貼られててなんか警官と警備員みたいなんがめっちゃ出動してて、そんなことはいいねんけど、わたしのお気に入りのかっこいいホームレスのおっさんがいつもの定位置からいなくなってて、大量のお荷物もなくなってて、勝手に心配になる。さて、世の中、本日はバレンタインデーというやつ。ご存知の通りわたしはそういったイベント行事は一切合切無視して暮らさせていただいているので、もちろん今日もただの平日として過ごさせていただいた。なのに、我が労働先には女子から女子へのバレンタインプレゼントを渡してくれちゃう乙女なかわいこちゃんがいて、3つももらってしまった。そのうちの2つはお手紙つき。なんとも女子力が高くてマメでええ子たち。しかーし、そのうちのひとつに聞き捨て(読み捨て?)ならない一文が書いてあったのであーる!「いつも北村さんに癒されてます♡」と、ええーっ! うそやろ〜!? わたしに癒し要素あるか!? いや、というか、どちらかといえば癒してなるものかっ! と思って生きている。「癒し」やら「ヒーリング」やらの類には牙を剥いて生きているつもり。すごーく時たまですがわたしの歌を聴いて「癒されました」と言ってくださる方も、まあ、ほんとにすごーく稀に、いらっしゃるのやけど、それも、受け取り方はその人次第やからこちらがどうこう文句垂れる話でもないのやけど、わたしにとっては褒め言葉やなく寧ろ貶し言葉な気がしてしまって、ガビーンって気持ちなのである。今回のお手紙をくれた女の子も、褒め言葉のつもりで書いてくれてるんやろうけど、結構ガチョーンな気持ちになって落ち込んだ。よし、これからは日常的にもっとどす黒いハラワタを見せて行こうと決意を新たにしました。

2.15水
休みやし、映画でも見に行こうとチャリ転がして隣町の亀有アリオへ。この亀有アリオの中に入ってるシネコンは結構穴場でいつ行ってもガラガラ、新宿渋谷とかで見たら混んでるのであろう封切りしたばかりの人気作とかでも、亀有では客5人とかで広々見れるのでいい。というイメージで来たのやけど、マーティン・スコセッシ『沈黙』は殆ど満席?なぐらい混んでいた。平日の昼間の回やのに。レディースデーやから? いやおっさんやおじいさんも多かった。わたしは全くの無宗教なのやけど、この映画がこんなにウケているということはなにかしらみなさん信仰に身に覚えのある人が多いのかなあ、とか思った。というのもわたしはあんまりこの映画、ピンときませんでした。長崎の切支丹の人々が迫害され拷問にかけられてそれでも信仰を捨てずに虐殺されまくり、片や伝説的な宣教師として日本にやってきたカリスマやった者が、転向して仏教のお坊さんになってたり、そういう信仰を巡る男たちのドラマって感じの遠藤周作原作のおはなしなのやけど、塚本晋也も窪塚くんもイッセー尾形浅野忠信もめちゃんこ英語流暢やしお芝居もうまいしよかったし、海飛沫の映像もかっこよかったのやけど、根本的な部分で、わたしは神様を持ったことがない人間なので、十字架を支えにし、神様が救ってくれるんやと信じて疑わない、やのに実際にはものすごく拷問を受けて酷い目に合っている、この人たちはアホなんかな? って思ってしまった。帰り道も、なんかやっぱり腑に落ちひんわ〜ともやもやしながら自転車こいでて、しかしはっと、あーわたしの好きな連合赤軍坂口弘に当てはめたら、わかるかもって、彼は死刑囚として東京拘置所の中いまも暮らしているのやけど、もっとかしこくうまい立ち振る舞いをして、ちょっと自分に嘘をついたらシャバに出られる機会はあったのに(当時の仲間たちはそうやって逃げたり、または早々に自殺したりしたのに)、坂口弘は信条を変えず転向しなかったことにより、死刑が決まったまま、いつ執行されるかもしらされずに何十年もずっと独房で生きている。今も生きている。宗教とはまた違うけどなんかちょっと似てる気がした。

2.16木
今日も休み。ほんとは昨日今日と、ちょっと泊りで撮影が入るかもで休みとってたのやけど、オーディションに落ちましたので暇になり、良い天気でぽかぽかなので自転車ころがして今日は行ったことない西新井の方へ行ってみた。しかし同じ足立区とはいえど結構遠くて、おまけに軽く迷子になったので片道自転車で40分くらいかかって疲れた。足立区は住みやすくてお気に入りやけど、わたしの近所は良い按配の安い飲み屋はたくさんあるのに喫茶店不毛地帯で、でも西新井まで行けば「シルビア」というわたしの好きな古臭いじじ臭い喫茶店があるらしいので行ってみた。西新井駅の少し裏手のパチ屋の2階。はい、パチ屋の2階というのがまず、信用できる! 昨今はどんどん潰れてってるみたいやけど、パチンコ屋が経営してる大箱喫茶店というのは間違いない場合が多くて、昔飯田橋にあった「白ゆり」ってところがすごい好きやって、あと日暮里にある「ニュートーキョー」というところもなかなか良くて、まああえて店名は書きませんがわたしの労働先も同種のパチ屋の2階系なのですが、どーんと広くて無駄にゴージャスなシャンデリアやステンドグラスがあって、コーヒーの味は決しておいしさを求めてはいけない、煮詰まって酸っぱくなってる率が高いのやけど、寧ろそれがいい! そして食べ物メニューが謎の頑張りを見せていることが多い! 西新井シルビアは、なんか重箱に入ったシルビア弁当というやつがあって、揚げもんや煮物やサラダ、それにうどんとお稲荷さんがついているらしい! 和洋折衷すぎる! まあファミレスとかにある〇〇御膳みたいなやつやね。ちょっとボリューミー過ぎてわたしは食べれる気がしなかったので頼みませんでしたが。コーヒーはすごく普通の味でした。シルビアは週刊誌や新聞の他に、漫画本棚があって、こち亀サラリーマン金太郎がそろってて、店内見渡すとひとりで御膳をつついたり、たばこ吸ったりしてるおっさんはだいたい漫画を読んでいた。いい光景。足立区に完全に引っ込んでここで働くのも悪くないなあと思ったけど、ここは制服が可愛くない、銀行員タイプの黒ベストか〜とか、結構忙しそうやのに時給安いなあ〜とか結構まじで色々考えちゃった。本当は歌詞書こうと思って喫茶店きたのに邪念が多くて一行もはかどらず。反省。

2.17金
朝から普通に労働。夜は浅草へ、今日は仲良しI田さんとそのご両親のお食事会に混ぜていただく日。浅草ついたらまずは一軒目、雷門の裏あたりの酒屋さんがやってる大衆酒場にもうI田家は集っていて合流。何度かライブにいらしてくれててお会いしてはいたけど、I田さん父はとても愉快で見た目もかっこいい60代! 2軒目の予約の時間が迫ってきたのですぐにこの大衆酒場は出ることになって、I田さん父は鞄から新聞紙をおもむろに取り出し、コマエというお魚の残りを包んで持って帰っていた! 新聞のそんな使い方! さすが! で、2軒目は浅草の駅から直結してるのやけどすごく怪しげな地下街にあるベトナム料理屋さん。この地下街が素晴らしくて、天井の配管とかが全部剥きだしのままで、至る所に「就寝禁止」という警視庁の貼り紙が貼ってあって、入ってる店舗もあやしいマッサージ屋さんとかラーメン屋、蕎麦屋。予約してくださってた我らの行くベトナム料理やさんもなかなかあやしげで綺麗とは言い難い。でも人気店らしくてすごく混んでいた。店内はカウンターしかなくて、テーブルは一個だけ地下道に露天のように出ていて、でもたぶんここは特等席な模様でそこへ通していただく。食べながら地下道を見渡せてそれだけでも面白い。ベトナム料理というのをわたしははじめて食べたので、全体的に不思議な味やったけど、カエルさんのお肉とナマズさんのお肉が思いの外おいしくって気に入った。カエルさんの味は鶏肉に似ている。残骸の骨や関節が小さくて可愛かった。食後のベトナムコーヒーもおいしかった。I田さん父は会社まで片道45分ぐらい毎日徒歩で通勤しているらしく、その道中に色んな友達がいるそうで、今週も名前も知らない小さい子どもにいつも会うおじさんとしてバレンタインチョコをもらったらしい。可愛い。それから通勤路にある幼稚園に通ってていつも挨拶してた男の子がいたけど最近会わなくったなあと思ってて、ある日街を歩いてたら自転車に乗った少年に「おじさん!」と声かけられて、振り向くとあの幼稚園児やった男の子が小学生になって自転車を見せながら話しかけてきたそうな。ええ話や〜。楽しくおしゃべりをして、不思議なごはんを食べて、とても楽しい時間やった。I田家はお父様とお母様がとっても仲良しで、ごくごく自然に「あーん」をやっていて素敵やなあと思った。ご両親と別れてI田さんと二人で足立区へ戻り、まだ時間も早いので我ら行きつけの飲み屋Kで閉店まで飲んで、それからガストへ行ってさらにおしゃべりしてこちらも閉店2時で追い出され、今日はまことにたのしい日やった。

2.18土
カエルさんやナマズさんのお肉を食べたおかげか、ガストでドリンクバーのコーヒーを飲み過ぎたおかげかわからんけど朝になっても全く眠れず、眠り薬も全然効かなくて、身体はだるいのに目と脳はランランって感じで困った。カエルさんやナマズさんは覚醒効果があるのやろうか? 家で一日だらだら過ごした。特選小説の原稿をちょっと書き出して途中であんまり面白くないわと思って消した。

2.19日
特選小説の連載原稿は明日が締め切りなので今日こそはっと、ちゃんと書いた。あとは洗濯したり、ちょっと次の映画の劇伴をピアノ弾いて作りかけたりして、あとは読みかけやった本『仁義の報復〜元ヤクザの親分が語る埼玉愛犬家殺人事件の真実』を読了。この著者の元ヤクザの親分、俺はチャクラが開いている!とかゆって瞑想してる写真を扉で使いまくったりしてて、ぷぷぷってなりながら読んだ。山崎永幸は関根元に巻き込まれたちょっと被害者的な見方を今までしてたのやけど、この本によると自分から警察に司法取引を申し出て刑期短くしていたり、結構悪い奴らしい。ほんまかな? 関根元の、カタギやのに人の命を屁とも思ってない殺し方やバラし方の鬼畜性を、彼は山窩(サンカ)の末裔やったんではないかという書き方をしてるのやけど、そういう見方は面白いけど、これもほんまかな? というか、すぐ瞑想するしオーラとかチャクラとかゆうし、ぶんざえもんとかいう変な霊媒師連れてきたりする、そういう人の書くものはなんかやっぱり、半笑いで読んでしまうよな〜というのがわたしの感想でした。関根元も風間博子もご近所の東京拘置所にいると思うと、わくわくしちゃうね。数年前に見に行った死刑囚絵画展の風間博子の絵が忘れられへん。穴の底に裸で膝まづいてる女の人の、足の裏だけ真っ白で、タイトルが『潔白』やった。