9.10〜16日記

9.10月
朝から普通に労働。朝イチ、大好きなWMさんがいらっしゃりうれしくて小躍り。同僚のじいじに、「綺麗な人だね〜知り合いなの?」と聞かれる。やはりWMさんは誰もが振り返る魅力的な女性である。いつも通り仕事上がって帰宅。翌日からのまさかの地獄の日々をこのときは全く予期しておらず。

9.11火
朝5時、仕事前にお風呂に入り、上がろうとしてドアを開けた瞬間、滑っておもくそ転倒。左ひじを強打。あ、これはいってもうたな……と、折れた感覚をリアルに感じる。見る見る腫れあがり、右手と比べるとまるで別人の腕。病院があくまで待つ。この時間が長く、永遠のように感じられた。職場に連絡し、折れたかもなので今日はたぶん行けませんと伝える。病院は9時からだけど8時20分頃に近所の整形外科に行く。まだ40分前なのに、すでに15人くらいの行列。みんなじいさんばあさんばかり。この整形外科はリハビリに力をいれているので、足腰が痛いじじばばが集まってくる模様。みんな待ち時間も楽し気にトークして、じじばばのサロンと化している。9時になって受付。すごく混んでいたけど、順番を先にしてくれたのか9時半頃には呼ばれる。問診の時点で、あーこれは折れてるね〜と言われる。レントゲンを撮って再び診察。ひじのお皿の部分が割れているので、これは手術してプレート入れないといけませんと言われる。まじ?! 入院手術しなきゃだけどうちではできないので、病院紹介される。紹介された病院の予約は明日なので、今日はギブスをハメて帰ることに。手術は全身麻酔なので、それの同意書サインが必要だから、親御さんに来てもらってくれといわれる。まじか……。死ぬほど嫌だったけど、母親にめちゃくちゃ久しぶりに連絡。帰って暇なので、アマゾンプライムで映画を見た。そういえば見たことなかった、名作と言われているのを見てみよう、と、今更『レオン』を見る。マチルダちゃんの可愛さに悶える。そのあと、何故か『ビーバップハイスクール』を見る。全部がコントのようで笑える。ヤンキーものヤクザものの映画を見ていていつも思うのは、たまり場になっている喫茶店が魅力的。喧嘩でケガしてギブスハメてるヤンキーがいっぱい出てくるので、自分もギブス仲間なのでちょっとほっこりする。夜11時半頃、母親がやってくる。母との確執についてはこんなところには書ききれないのではしょります。

9.12水
昨夜母が東京にやってきて、25年ぶりくらいに同じ部屋で寝た。母にベッドを明け渡し、わたしは座椅子で。意外と眠れた。6時半に起きて、入院の準備をし、紹介状を握りしめ、朝イチに東部地域病院という病院へいく。亀有の駅前にあるこの病院、真向かいに角海老ソープランドがあってちょっと笑えた。母は角海老を知らなかった。かなり待ってようやく先生の診察。からのレントゲン。からの再び診察。待合室で待ってたら隣り合わせたおばあさんに「お嬢ちゃん、学校で転んだの?」とはなしかけられてびびる。いいえ、お嬢ちゃんはもう33歳、学校へは行ってません!おばあさんには20代の孫がいるらしく、「うちの孫どうかしら?宮大工なんだけど。出会いがないって嘆いてるのよ」とのこと。え、こんな出会い頭にそんなオファーっすか?!さすが足立区民。「〇〇団地の〇棟、バス停のすぐ前の部屋の加藤ってとこだから、遊びに来てね」といわれた。行きませんが、個人情報山盛りありがとう、おばあさん。順番が呼ばれ再び診察室。岩粼という先生は、若いがなんか上から目線でムカつく感じ。せっかく紹介されて来た病院なのに「ウチでは月曜しか手術やってなくて、来週と再来週の月曜は祝日だから手術休み、はやくて3週後になる」とぬかされる。ここで腐っても大阪のおばちゃんな母が「それはそちらの事情ですよね?手術だっていうからせっかく大阪から来たんですけど!そんな待てません!」と乗り出してくれ、結果、早急に手術できる病院を探してもらうことに。ここから更に3時間ほど待ち、ようやく都立駒込病院てとこに入院先が決まる。入院セットの大荷物をもって、電車&バスを乗り継ぎ、都立駒込病院到着。身長体重血液検査尿検査から心電図、レントゲン、呼吸器系とあれこれ検査ツアーをし、夕方やっと入院手続きが完了。長かった。大部屋はベッドがあいてないから個室に通された。いくらかかるんやろ! 会計が怖すぎる! 18時半頃、夕飯が運ばれてくる。お魚の煮付(味がない)、ほうれん草のおひたし、きゅうりの漬物(ほんのちょびっと)、白ごはん。どれも味が薄くて食が進まない。おかずだけ完食しごはん残した。こんなしょぼい食事が一食480円もするて高すぎへん? 東京拘置所のプリズン弁当のが100倍おいしかったよ! 手術は明日に決まり、19時すぎに母帰宅。(わたしのアパートの鍵を渡して泊まってもらっている)21時頃に眠剤を飲み、22時消灯で就寝。途中看護婦さんが1時間に一回は見回りに来るので、その度目が醒める。あんまり寝た気がしないまま朝。

9.13木
6時に看護婦さんがきて、体温、血圧、血中酸素をはかり、薬を飲む。朝ごはんはなし。水分は10時までオッケーだけどそれ以降は断飲といわれる。入院受付窓口に限度額適応認定証をもっていく。これで最低限度額までしか支払わなくても済むはず。部屋に戻って手術着に着替え、点滴が始まる。 いよいよかとわくわくしながら、町田康の「ギケイキ2」を読む。

ギケイキ2: 奈落への飛翔

ギケイキ2: 奈落への飛翔

母がくる。しゃべると喉が渇き、水が飲めないので、しゃべるのを控えてもらう。病室で対面したまま、わたしは読書、母はスマホいじりで無言。へんな感じ。母は年齢よりは若く見えるし全体的に可愛らしい仕上がりだけど、手がもうおばあさんのそれだった。まあもう60代やしね。14時に看護婦さんが迎えに来て、いざ手術室へ。看護婦さんに「今のお気持ちは如何ですか?」ときかれ、「たのしみです」と答える。全身麻酔、ウキウキが止まらない。点滴ガラガラをひきづって廊下を歩くも、心はスキップしたい気持ち。ここで母は用事があるので大阪に帰って行った。手術室に入り、ベッドに寝かされる。先生(若いけど東大卒)と、助手の外科医と、アシスタントの女性がいる。先生は肩や首を回してなにやら軽く体操、なんか試合前のスポーツマンみたいやなーと思う。点滴からヒリヒリする液が流し込まれ、身体がポカポカフワフワしだして、一瞬で意識が飛んだ。手術がおわり、先生に大きな声で起こされる。あっという間にであった。が、14時半からはじまって、おわると19時。なかなかの長丁場だった模様。喉が激烈に痛い。酸素マスクを喉まで差し込んでいたから喉に負担がかかっていたらしい。水で喉を潤したいが、あしたの朝まで、断食断飲だと言われる。嘘だろ? 死ぬぜよ。最後にごはんを食べたのは昨日の18時、最後に水分を取ったのが朝10時。それ以降何も摂っちゃだめといわれて、すでにからっからである。わたしはもともと、ちょびちょびお菓子や飲み物を摂って生きているので、蓄えがないのである。38時間断食、20時間断飲なんて! 干からびて死んじゃうよ。病室に帰り、おまたに違和感を感じたので触って確かめると、なんとオムツ&ふんどし&おまたに管を入れられていた! 口には酸素マスク、右手は点滴、手術した左手は紐で吊られていて、おまたからは管。なんだかいよいよ落ちぶれたもんだわ…という気分になる。夕食は抜き、水も飲んじゃだめで、眠気も来ず地獄。点滴に睡眠薬も入ってるというが、わたしの不眠症舐めんなよ。30分おきに看護師さんが点滴の様子を見に来る。23時になっても寝てないので見かねて、いつも常用してる眠り薬を持って来てくれるも、水はほんの一口しか飲ませてもらえず。なんとか飲みくだし、眠剤がきくのを待つ。この夜、ちょっとすごい体験をした。あー痛いわ〜と思いながら目を閉じていると、身体がふわあーと浮き上がった、しかし、浮き上がったわたしをわたしがまた見てもいる。わたしが3人いる感じ。そしてふわーっと浮きながら、気づけばわたしは阿佐ヶ谷を歩いていた。深夜、どこも閉店して暗くなった商店街を、好きな人とふたりで歩いていた。好きな人はほろ酔いで自転車を押していて、その隣を歩いていた。いつぞやの、楽しかった日のデジャブ。あー幸せーと思いながら、第1話、終了。ちなみにこれは単に眠っていて夢みていたのとは断じて違う。何故なら、身体の本体には感覚があって、途中で鼻かゆ、とか思って鼻を掻いたりしていたし、途中看護婦さんが点滴のチャックをしにきていた時の意識もある。そして何より、これは夢とは全然違うってゆう、うまくは説明できひんけどはっきりした感覚があるんである。第2話。わたしは中学生で、セーラー服をきて近所の酒屋の前で、こっしーという仲良しの友人と待ち合わせをし、ふたりで登校している。わたしもこっしーも若い。なんの話をしていたかは忘れたが、箸が転んでもおもろい年頃。きゃっきゃっと笑って歩いていた。こんな具合で6本くらい幽体離脱ツアーをしていたら、朝。なんかふと、走馬灯をみていたような気分になった。死ななくてよかった。死にかけなぐらい痛いのと、眠剤と空腹が重なって、幽体離脱できたんだろう。やり方の感覚覚えたので、楽しかったしまたやってみようと思う。

9.14金
朝6時に看護婦さんがきて、体温、血圧、血中酸素を調べ、朝から採血2本。それから聴診器でお腹の音をきき、よし、お腹も動き出したので、飲み物だけ摂ってよしが出る。烏龍茶をぐびぐび飲む。うまい。烏龍茶こんなうまかったっけ。感動。8時すぎに朝ごはんが運ばれてくる。初日の夕食がひどい有様だったから期待はしてなかったけど、この日の朝は小さいシャケ、切干大根、味噌汁、ふりかけごはん、とスタンダードな和朝食。38時間ぶりのごはんで、腹ペコだったからおいしく感じた。ちゃんと残さず完食。からだ中繋がれてる身なので歯磨きもベッドの上。ふとベッドの横を見ると、黄色い水が溜まった袋がくくりつけられている。わたしの尿であった! 無意識に1リットルほど排尿していたのである! ひええ! 膀胱に直接管が入ってるので、催した感覚もなく尿がでていくみたい。人体って不思議。朝から点滴をまた何本か。痛みもひどいので痛み止めも点滴でながしてもらう。手術してくれた先生が回診に来て、傷口の消毒と、ギブスを装着。手術した左手は紐でくくりつけられて高いとこからぶら下げられてるんだけど、指がぱんぱんに浮腫んでグーパーもちゃんと出来ない感じ。しばらくすると看護師さんがきて、麻酔後初、日本の足で立った。問題なく歩けたので、おしっこ管を抜くことに。何やら尿道から管を入れて膀胱に風船状のものが突っ込まれていたらしい。おもしろいので抜くところをまじまじと観察し、尿の袋を写真に撮ったりしていたら看護師さんに怪しまれる。11時から院内の美容室に洗髪しにいく。3日間お風呂入っていなかったので汚くて嫌だったのでさっぱりした。美容院嫌いだけど、こうなると助かる。帰ってきたら昼ごはん。炊き込みご飯に吉野煮、酢の物。酢の物にエビが入っていたのでエビだけ残す。あと給食みたいに牛乳パックがついてきたけど、これも残す。管を外して初おしっこをする。なんか、おしっこが臭い! おしっこなのにうんちみたいな臭いがするんである。嫌すぎる! 点滴のせいなのか? あーお風呂でおまたごしごし洗いたい! 13時すぎに特選小説のわたしの担当編集者さんO高さんが差し入れおやつを持ってきてくれる。初のお見舞いさん。ありがたい。なんか、編集者が病室にお見舞いに来るって、いっちょまえの作家先生みたいですね、と言い合って和む。特選小説は編集長が変わりリニューアルに伴い、次号がわたしの最後の連載になるので打ち合わせをしつつ、たわいもない話をする。ツイッターで骨折した旨を呟くと、本当にたくさんの錚々たるみなさんが心配してくれて恐縮しきり。みんなのやさしさ、あたたかさが沁みる。先生が回診に来て、点滴も取れた。明日退院してオッケーといわれる。ホッ。夜、飯田さんがお見舞いにきてくれた。昨夜飯田さんが遂行してきた一大ミッションの土産話をきき、病院ではタブーな感じのお下品な話題でたいへん盛り上がる。途中、夕飯が運ばれてくる。すんごいしょぼくて小さい魚のフライに、キャベツの千切り、青菜のお浸し。全然食が進まないけど、これで一食480円も実費でとられてるので勿体ないのでおかずだけつまんでたべた。飯田さんが帰り、再びひまな病室。早めに睡眠薬を飲み寝た。今日は久しぶりに点滴がないので夜中の見回りの看護婦さんも来ず、静かに眠れた。幽体離脱はせず。

9.15土
毎日朝と夜に担当看護婦さんが変わるんだけど、入院中いちばんメインで診てくれていた看護婦さんは今話題の吉澤ひとみに似ている美人。そして今朝の担当はテニスコーツのさやさん激似のおばさんであった。最後の味なしごはん。おかずだけちょびちょび食べて、部屋を片付ける。もう点滴につながれていないので歩き回れるのでうれしい。とはいえ片腕では何をするにも不便で困る。先が思いやられる。ゆっくり準備してテレビ見てぼんやり。10時頃に明細をもってお姉さんが現れ、お金を持って支払窓口へ行く。土曜日だからなんか、窓口激混みで行列。じいさんは堂々と順番ぬかしするし、みんな病人でよぼよぼやし、なかなか壮観であった。びびっていたお会計だが、限度額適用認定証を使っても9万もかかり、泣きたい気持ちに。なんとか支払いを終えて、病室へ戻る。さや看護婦さんがやってきて、患者の目印バーコードのリストバンドをちょきんと切られ、これで退院。ひとりで退院&今日は大雨なので、片手で傘は持てないのでお金かかるけどタクシーで帰ることに。タクシー乗り場がこれまた行列で待ったけど、無事乗車。タクシー代4000円ちょっと。ああ、なにからなにまでお金がかかる。4日ぶりの家。荷物の整理をして、ちょっくらコンビニへ、と思って傘さして外出。したら徒歩2分くらいの距離やのに、つるっと滑ってまた転んだ。尻もちついただけやったけど、転んだ表紙に唇を噛み、流血。もう踏んだり蹴ったり。わたし、悉くあかん感じ。もう家で大人しくしてよう。。。よるのひるね門ちゃんから「トークイベントやりましょう」と連絡をもらっていたので、「北村早樹子骨折喫茶」を緊急開催することにする。9月19日水曜、19時から阿佐ヶ谷よるのひるねです。ライブは出来ませんが、トークするので、北村さんをお見舞いする気持ちでぜひ来てください。入院話を肴にギブスを眺めながらお茶会しましょう。諸々メール返信などをし、早めに睡眠薬を飲んで寝ようと思うも、全然眠れず。眠れないどころか、なんか足がもぞもぞして居ても立っても居られない感覚になり、夜、散歩に出ることに。ひとりで拘置所のまわりをゆっくり歩いて散歩した。川の匂い、夏草の匂いがして、頭の中で豊田道倫さんの『東京の恋人』♪夏草の誘い、オリオン座の瞬きをうたいながら歩いた。

9.16日
ギブスでの寝方がいまいちわからず、腕の置き方を試行錯誤しての就寝だったのであまり眠れず。病院の自動で起き上がるベッドが如何にらくちんだったかを思い知る。骨折してから、左腕を支えるために身体じゅうの普段使ってない筋肉を使ってるからか、身体じゅうが筋肉痛。座ってて立ち上がる、寝転んでて起き上がる、というだけでも相当たいへんな動きになるんである。そろそろパンツがなくなるので朝から洗濯。洗濯機を回すところまではいいけど、洗濯を干すのがこれまたたいへん。めちゃんこ時間がかかったけどなんとか干せた。物干し竿にぶら下げていると、外から太鼓のお囃子が聞こえてくる。そうか、今日は地元のお祭りの日か。昼から駅前のベローチェで、某誌の編集者さんが打ち合わせにきてくださる。わざわざ足立区まで来てくださり、しかもお見舞いといっておいしいパンもくださった。感謝。ベローチェで座った隣の席のおっさんも腕を折っており、三角巾で吊っていた。隣同士でギブスが並ぶという小さなミラクル。ベローチェで原稿の打ち合わせをして、参考文献の聖書をお借りする。すごく年季の入った聖書で、ページが金塗りのかっこいい本。実は聖書って読んだことがないので、これを機に読んでみよう。打ち合わせを終え、帰りに百均でうさちゃんのアップリケとフェルトを購入。帰って、だっさいメッシュの三角巾をちょっとでも可愛くしようと、アップリケを縫い付けて奮闘。片手じゃなかなか縫物は出来ない(当たり前か)けどなんとか縫い付けた。しかしわたしセンスが皆無なので、結局残念な仕上がりになってしまった。余計にださいね。というか、33歳でギブスの三角巾にうさちゃんや小鳥さんを縫い付けてるって、頭大丈夫か?って感じになる?もはやなってる?きゃ〜。まあ、ただのダサい人より、可愛くてアホな人の方がいいかと自分を納得させる。夜、昼間に録画していたザ・ノンフィクションを見る。今日の特集は女優のしじみさん。森下くるみさんも登場してなんかうれしかった。テーマは母親との確執。ベクトルは違えど自分にも照らし合わせる部分があって、なかなか沁みた。何本か出演作の映画拝見してるけど、しじみさんは素敵な女優さんだと思います。骨折してから、ぼんやりテレビを見る時間が増えた。