妻有日記<7.20〜26>

7月20日(月・祝)
朝からお稽古、歯磨き粉問題で苦戦する。わたしは変なところ潔癖というかチキンなので歯磨き粉をごっくん出来ないタイプで、だので歯磨きしながらだらだら垂れちゃうのでやけど、なんと芝居の中で歯磨きする羽目になり、しかもまあ〜フリでええかななんて考えてたら松井さんから、歯磨き粉つけてまじでやってくれとゆわれ、お口の中完全に歯磨き粉まみれでしばらくセリフしゃべって、すぐ歌も歌わなきゃで、結構きつい! しかしがんばるしかなさそうである。役者ってこういう細かいところもたいへんや。この日はお稽古ははやめに切り上げ、夜みんなで竜ヶ窪という森へ行くことに。車で30分くらい行って、そっから森に入っていくのやけど、一歩足を踏み入れるなり、もうそこは異世界って感じで、まず音がすごい。天然自然のリバーブが満開で小鳥や虫が大合唱している。ときどきなんか、轟みたいなごおおおて音が聞こえて、前を歩いてる久保井さんにこれ獣ですかね? てきいたら、飛行機でしょう、ていわれて恥。すっごく水の冷たくて透き通った川が出てきて、草で覆われた崖の先には池なのか沼なのか、本当に「おまえが捨てたのはこの金の斧か? 銀の斧か?」の仙人が出てきそうな、霧に包まれた水辺が出てきて、すごくかっこいい。なんかここは竜神さまを祀ってる場所らしく、祠みたいなところでお賽銭いれてちりんちりんした。そのすぐ側に明らかに獣が食べかけで投げた歯型のついた何らかの木の実が落ちていて、絶対なんかおる! こわ〜。結構15人ぐらいの大所帯で森に入ったのやけど、気づけば3組くらいに分かれていたみたいで、わたしは先頭の久保井さんとふたりになってしまい、いちばんに森を抜け出て駐車場に戻ってきたはいいけど待てど暮らせど誰も帰ってこない。心配になる。そうこうしていたら第二陣が帰って来る声が聞こえてきて、そしたら久保井さんが「隠れよう!」て小学生みたいなこと言い出して、トイレの裏側にふたりで隠れる。小さくなってしばらく潜んでいたんやけど、偶然にもこの日わたしも久保井さんも真っ赤の服を着ており、目立ちすぎてばれてしまった。ていうかこの歳でかくれんぼて! たのしかった。みんなが揃って近くの温泉いこうてなってたのやけど、ここでまさかの森に残る派が出現!鳥さんとヘンゼルは森に残るとのこと、あと音楽の宇波さんは大自然ミュージックをフィールドレコーディングするらしく、3人を残し、あとのみんなで温泉。きもちようなっていつもの如くアイスを食べながらみんな出てくるの待って、帰路。帰ってごはんの後やはりいつもの宴。宇波さんも一緒にわいわい飲む。わたしがあまりにもたのしげにずっと笑い転げているので(笑かしてくるんやもん)「いや〜北村さんにも友達が出来たんか〜て思うとなんかしみじみ親戚のお兄ちゃんみたいな心境なります」とかいわれる。と同時に、「東京帰って寄せ返し気を付けた方がいいですよ、絶対鬱になりますよ」と忠告される。確かにそれを恐れている。結局3時半ぐらいまではしゃぎ、最後へべれけで人間ではない別のおもしろ生命体になってしまわれた久保井さんを部屋まで送っておやすみなさいするのが日課に。部屋に消えて扉がしまるまでずっと踊ったりしてて、本当に隅々までエンターテイナーなんやな〜と感服。

昼 そうめん、なすび、ズッキーニのてんぷら、グリルピーマン、きゅうり
夜 豚キムチ、きゅうり、おみそ汁


7月21日(火)

スタッフさんのスケジュールの関係で夜の21時から通し稽古という結構役者側の体力的には鬼な一日。わたしはそろそろ体力的に限界が来てるのか、ついにごはんが食べられなくなって、晩ご飯のときもここで食べとかないとあかんとわかってるのに、噛む体力がもうなくて、演出助手まこちゃんにこっそり残したごはんを押し付ける。そんなよぼよぼながらも、夜から衣装つけて本番通りに通し稽古。やってみると信じられないぐらい忙しい、本当にでずっぱりで休む暇もないことが発覚して、しかもはけたら次どこの幕から出て、とかややこしすぎて覚えれなくててんてこ舞いで疲れ果てた。そして出るきっかけを間違い、王様とふたりで登場するシーンで致命的な間違いをおかしてしまい、通しを一旦止めてしまった。そしてぜんぶが終了したら2時間近くかかっていて、ほんまは上演時間70分にしなあかんのにどうするんやろ〜てところで、ダメ出しは明日しますとのことで終了。不安が募るばかりでみんなでコンビニへ行き、疲れ果てたので食堂の宴は短めに終了して寝た。

昼 やきそば
夜 筑前煮、浅漬け、ごはん

7月22日(水)
朝劇場集合で、照明つりや音響仕込みの日。わたしはまたお料理班で制作トミーちゃんと羽場さんでご飯作り。わたしはお料理苦手で、トミーちゃんもあまりしないとのことで、そんなふたりで炒り卵を作ろうとレシピを見ながら混ぜていて、わたしはなんの疑いもなく塩大匙3杯といわれはいはーいといれて混ぜていて、しかし実のところ分量の見間違いかなんかだったらしく、信じられないぐらいしょっぱい卵が出来てしまった。しょっぱ卵、捨てるのももったいないし、どうしよどうするんておもってたけど、一部の塩分を必要としている汗水たらして働きまくっておられる男性陣からはしょっぱ卵思いのほか好評で、おつゆに混ぜたりなんやりして食べてくれた。午後からインスタレーションのミーティング。インスタレーション?! て感じでわたしはアート方面疎いのでよくわからんけど、なんかやることになった。正直芝居本編の方が全然ピンチなのにこんなんしてる場合か!? て気持ちもあります。夜になって再び召集がかかり、大幅な脚本の変更が! 構成とかがらっと変わって、イチから覚えなおしな感じに。信じられない。また読み合わせからはじめる感じに。うーこんなことなら昼間インスタレーションうんぬんしてた時間、こっちのことやりたかった。読み合わせおわってしばし台本を整理して、カットになった箇所やつなぎ目など確認。ある程度認識できたところでコンビニへ。今日は久保井さんとふたりで。道中、結構お互いの腹の中というか、本音を話した。帰ってまたみんなで飲んで、しかし俳優陣は台本覚えもあるのでさーっと去って、気づけば久保井さんとわたしと、あとはスタッフさん。2時半くらいに久保井さんが信じられないおもしろい行動に出たのやけど、一応パブリックイメージとかもおありなのでここでは書きません! しかしほんとにおもしろすぎた、笑いが止まらない。本当に毎晩いいものを見せていただいている。テレビも映画もなんの娯楽もない場所だけど、この方を見てるだけで十分満たされていて不自由しない。

昼 食欲でなくてボイコット、漬物だけかじった
夜 なすとピーマン味噌炒め、餃子

7月24日(木)
午前中にセリフの読み合わせ。色々変わった箇所を確認して、午後から場当たりというやつ。衣装も化粧も本番通りに、照明や音響の加減をあわせていく作業なのやけど、同じシーンを何回も何回もやる&歌も何回も何回も歌うので、まじで体力的に限界な感じに、、、しかもわたし、おもてた以上に出ずっぱりで引っ込む時間がほぼない。引っ込んだと思ったら歌だけ歌いにいくとか、そういう段取りをおぼえるのがたいへんすぎる。これは夏バテなのかなんなのか、しんどくてごはん食べれない病になってて、だから余計に元気が出ない。だけど今日も23時近くまで10時間以上、ほんとに一日よくがんばったと思う! だけど俳優陣もう結構みんな限界来ていて、顔つきがどんどん変わってきてて、この人こんなやったっけ!? てなっている。みんなおかしくなってきてはいるけど、いつもの食堂での宴は決行。音響の牛川さんが、ステキなおつむのフォルムをしておられることから、炊飯ジャーにそっくりだと久保井さんが言い出して、そこから目を書き鼻をつけ髭をつけ、どんどん力作が仕上がっていく。確かにフォルムがそっくりだったのやけど、装飾によってだんだん何の顔かわからない状態に。しかし久保井さんというお方は本当にヤンチャ小学生のような一面があられるなあ。

昼 食欲わかずなんかおつゆだけ飲んだけど、辛くてしんどかった
夜 からあげ、冷奴(食欲ないけど、好きなものやったからちょっと食べた。)

7月25日(土)
朝5時半くらいにコーヒーつくりに下へ降りたところ、はぶらし握った久保井さんがトイレの前の廊下でひっくりかえって寝ていた。午前中はインスタレーションの練習とやらに時間をさき、正直そんな場合では全くないのに、この切羽詰った中、悠長になにやってるんやろ? とか思いつつ抵抗できないのでしぶしぶ準備。午後から場当たりの最後のクライマックスのとこをやって、なんやかやですぐ本番。本番とゆうか今日は関係者? 地域の方々を招いたプレス向け公演というやつ。どたばたなりに一応それっぽく形にはなったんかなあという感じ。時間が早く、終わってまだ5時とかで、珍しく6時くらいには解放されたので俳優陣のみんなで温泉→コンビニというこちらの暮らしでは定番の(しかし超ひさしぶりの)極楽コース。わたしは人生はじめてメガネを持って温泉に入ったのやけど、こんなに違うもんかってぐらい楽しめた。周囲のおばあさんの年季の入った体つきを拝み楽しむのはもちろんのこと、露天のお空が絶景で、お星さまも見えるし、石の上をちいさなカエルちゃんがひょこひょこ飛んでいる! かわいい! 温泉からコンビニめぐって、近くでやってるらしい祭りを車の中からちらっと鑑賞して帰宿。またみんなで宴が始まる。なんか今日は余裕があるからか、音響部、照明部が張り切って料理をたくさんだしてくださって、あんまりおつまみ的な不思議料理には手を出せないわたしやけど、ちょびちょび食べた。音響部牛川さんのお料理、すごくおいしかった。

昼 しんどすぎてご飯食べれるパワーがなくてボイコット。そしたら制作トミーちゃんが栄養ドリンクを部屋まで持って来てくれた涙
夜 カレーだったのでちょっとだけ、小皿に離乳食みたいにして食べた
深夜 牛川さんの作ったしょっぱい豆腐サラダ(超うまかった)、餃子の皮ピザなど

7月26日(日)
いよいよ本番初日。朝から稽古で全シーンさらっていく。しかしわたしは結構疲労ピークで体力的にやばい。ちょっと喉が心配なので声は本番まで温存させていただくことに。お昼もなんかしんどすぎてごはんボイコット、アイスだけ食べた。昼からもお稽古して、準備して本番。の前にインスタレーションという試練があり、やる気ないのきっとバレバレやったことでしょう。そして本番。本番までのちょっとした空き時間とか、ちょっとでも体力温存するために地べたにねっころがっているのやけど、これがすごい気持ちよくて、ひやっと冷たくて固い床が落ち着く。衣装でお行儀悪いけどずっと寝ころんでいた。そして本番。どこから出てどこにはけて次はどこのシーンでどの小道具もってて、みたいな段取りがようやくちょっと流れがわかってきた。全体としてどうやったのか、演技的にどうやったのかとかわからんけど、わたしなりにはそこそこ良い感じの仕事が出来たような気がして終了。突貫工事にも程があるわ! て怒っていたはずだけど、まあなるようになんとか出来るものやなあ。初日乾杯をして、久保井さんを見に唐組ご一向さまがいらしてて緊張! みなさますごく背筋の伸びた青年たちでかっこよかった。ここ数日固形物が喉を通らなかったけど、終わるとほっとしたのか、きゅうりたくさん食べた、あとお稲荷さんも食べた。たぶんごはん食べられないのは不安過ぎて精神的なもんやったのやろう。最初は色んな人とおしゃべりしてて、途中なんか真面目な事件的な緊張感のある話し合いが行われてて、およよとなったりしつつ、2時ちかくなってようやくいつものテーブルの定位置に座って、スナック早樹子を開業。といっても久保井さんのおもしろい話をふむふむ聴いたり愉快な行動にげらげら笑ってあとは氷入れていいちこついでるだけやけど。4時ぐらいになって、外が明るくなってきて、さすがにもう寝ましょっとなって長い一日が終わった。見に来てくださった方、ありがとうございました。

昼 食欲なくてまたまたごはんボイコット
夜 打ち上げで、きゅうりたくさん、きゅうりの漬物もたくさん、お稲荷さん、味噌汁など