7.18〜24日記

7.18月
おひるにまた千木良家でマンツーマンお稽古をして、夜は下北の稽古場で金子さんも一緒に稽古。5場のところの動きの演出をしてもらって、通しもやった。千木良家ではのりのりで出来ていても、実際の広さの場所でやると動けなくて全然思ってたように動けず。通しにはじゅんこ先生もいらしてくれて、細かな点をご教授いただいた。

7.19火
朝から虎の門の方の病院でお注射ばきっとキメて、それから一旦下北、バブーシュカで9月4日のおやつの時間チラシを受け取りに行って、今日も千木良家へ。部屋で練習。とあるシーンで、ここは早樹子はファムファタールになるのよ! とC子せんせいにご教授いただき、やってみたら結構たのしい。夕方、明日は小屋入りなので会場に持っていく美術のお花や花瓶などを千木良家和室でくるんで詰めたり準備して、あーもう本番はすぐそこ感でそわそわ。夕方、千木良家から稽古場まで歩いていたら、突然ゲリラ豪雨的な大雨に見舞われ、傘持ってなかったのでふたりでマンションの駐輪場的なところに勝手に入ってしばし雨宿り。小降りになったので速足で稽古場まで行き、最後の稽古。じゅんこ先生と、じゅんこ先生のお友達の演歌歌手の方がいらしてくれて、最後の通しを見てもらう。やっぱり千木良家では出来ても、いざ広い空間で流れの中でやったら全然思うように動けず落ち込む。C子せんせいとじゅんこ先生から的確なダメ出しをいただき、わたしの根本的な欠点がここにきてすごく露わになっている感じで、ひとことでいうと演劇の基本的なことが全然からっぽということなのやけど、しかしもう明日はもう小屋入り、稽古場も終了の時間で、あ〜どうしようって駅までみんなでとぼとぼ帰りながら落ち込んでいたら、じゅんこ先生が突然抱きしめてくれたりしてちょっと気持ちが転倒して落涙しそうになった。これはこれは北村さん、結構近年まれにみる切羽詰まり具合ですな〜っと、俯瞰で見ている北村さんが斜め上からつぶやいていた。

7.20水
通勤ラッシュに揉まれながら9時に小屋入り。みんなで仕込み。照明さんが色々照明を仕込んでくれたり、わたしは主に美術のお花を活けたりしたけどこういった美的なセンスが壊滅的にない人間なので不安しかない。美術の加藤ちかさんが不在なので19歳の娘さんが仕込みにきてくれていたのやけど、このY子ちゃんがすごくよく働く気が利く良い子で感動した。会場のルーサイトギャラリーは隅田川のほとりで緑に囲まれてすごく気持ちのよい場所で、お庭もベランダも抜群に居心地がよくて、色々切羽詰った精神状態でもふっと外の風が入って来ると気持ちが洗われてちょっと健やかになれる。つかの間の休憩時間、下の和室で金子さんが寝ていて、わたしも真似っこしてひっくり返ってみたら気持ちよかった。和室の横のお庭に黒猫が来ていて、このにゃんこ用にオーナーさんが餌を置いてるのやけど、それをちっちゃなねずみがこっそり食べててかわいかった。昼から場当たり、というか部分部分でのアクションや扉の開け閉めなどを確認してやりながら全体を通して、夕方衣装のレイさんが着物を持って来てくださり、実際の本番通りの衣装を着付けてもらう。昨日もいらしてたじゅん子先生のお友達の演歌歌手の方も着付を手伝って下さった。フル装備になってみると、着物、ものすごく暑くて立ってるだけで汗が止まらない。しかもびしっと着物を着ると足とか全然開かないからアクションがすごく難儀。急遽、椅子に上るところを減らして別の動きに変えたりして、夜はメイクもばっちりやってゲネプロ。昨日の最後の稽古ではわたし相当メンタル的にだめになってしまっていたのやけど、いざこの素晴らしいロケーションで、可愛いお着物を着せてもらって、本番通りの環境でやると、なんか気弱な自分がふっとんでお芝居するのが楽しかった。これはいけるかもしれない。とかって乗ってきたけど、とりあえず着物が暑くて暑くて、金子さんもC子せんせいもわたしも、通し終わって相当グロッキーになっていた。たぶん全員軽く熱中症状態なんではなかろうか。わたしは普段頻尿なので、水分とると即おしっこ行きたくなるんやけど、この着物をきてしまうとおしっこは行けない。だからあんまり飲めない。結構危険なミッションでござる。これを明日から3日間、一日二公演。そんなこと出来るんやろうか。ふあんが募る。みんなでヨボヨボになりながら帰路。明日から本番。とりあえず気温が上がらないことを祈る。

7.21木
10時入りで午前中は当日パンフの折り込み作業とかをやって、昼から着付。幸い雨で気温は7月とは思えない涼しさ。ではあるのやけど、実際に着物フル装備で100分あのお芝居をやると、本当に汗みずくで顔面どろどろで眼鏡がぬるぬるのずれずれになって、これはちょっとやばいんではないか!? 役者歴30年以上の大ベテラン俳優の金子さんでも、これはやばい! とおっしゃっていて、そうなのか、これはやはりなかなかのハードミッションならしい。でもそんな感じやけどいざお客さんが入って、お客さんに見てもらってお芝居をすると楽しかった。演劇ってかけあいなんやなあとしみじみ思った。お稽古でたくさん動きとか決めごと教わったけど、いざ本番がはじまったらそういうことよりもその場のテンションというか、まあ殆ど二人芝居、途中三人芝居くらいだからそういう感じでも許されたのかもやけど、C子せんせいと言い合いするのも、抱き合うのも、金子さんと馬鹿し合いするのも楽しかった! 昼夜二公演、死んじゃうかもとか思ってたけど、やってみると意外とやれるもんで、いや、お客さんのちからが大きいなあと思った。見守られてると思うとパワーもらえる、なんか青臭くてキモイ言い方やけど。この日の夜公演はわたしの好きな人がいっぱい見に来てくださってて、みんなとおしゃべりしたかったけどなかなかそうもいかず断腸のおもいやったけど、でもこうやって好きな人たちがわたしなんかのために時間をさいてお金を払って来てくださることが本当にうれしくて、これはライブのときもいつも思うけれども、わたしは生で見に来てくださる方のおかげで生きながらえているなあとしみじみ思た。終わって和室で初日乾杯をしてしばしみんなでおしゃべりして、その後、見に来てくださっていたK井さんM井さんトミーちゃんと駅前の焼き鳥屋さんに飲みに行った。K井さんM井さんという、ふたりとも素晴らしい役者さんでもあり演出家さんでもあるお二方に見ていただくのはほんまに恐怖でしかない気持ちも大いにあったけど、でもこの3人は去年のちょうど今頃、新潟越後妻有で毎日ご一緒に暮らしながらお芝居をやらせていただいていた面々やったので、ひさしぶりにみんなでわいわいおしゃべりできてすごく楽しかった。当時はすごく大変なこともあったけど、1年経つと楽しかったことばっかりが思い出されて、ああーまた行きたいなーという気持ちが募り募っている不思議。毎日朝から晩まで演劇をやって、おなじ釜の飯を食らい、温泉に入ったり、森を探検したり、そして冷房もない虫だらけの食堂で毎晩夜中までおしゃべりをして、月やら星やらを見上げながら一服をして、あ〜これって青春のようではないかって思った。みんな全員、いいオトナなのにね。青春時代に青春くさいことが出来なかったから、三十路になってこういうことが出来て、あ〜思春期に思いつめすぎて死んだりしなくて本当によかったと思っている。

7.22金
昨夜はお芝居でスイッチ入ってしまったまま、好きな人たちとわいわい飲みに行ったりしてずっと元気やったから、わたし意外といけるやん。体力もあるやんって思ってたけど、いざ帰ると身体的には結構ガタがきていて、すごい疲れてるけど眠れなくて1時間で目覚めて、もっかい寝てでもまた1時間で目覚めて、ソファの方で台本読んだり一人で練習したりしてたら気づいたら気絶してて、変な体勢で寝ちゃって節々が激痛。ちーん。お風呂入って準備して、浅草橋ルーサイト10時入り。金子さんもC子せんせいも結構お疲れな模様、というかみんなお疲れですわなあ。演劇ってほんまに、無限の体力と精神力がないとやれないと思う。そうはいっても今日も二回公演がある。体力的な不安はあったけど、でもいざはじまるとお芝居中は楽しくて、とくに3人でのかけあいのバカしあいのシーンがすごく楽しかった。昨日は雨で中止になってくれて静かやった浅草橋ですが、実はこの公演期間中地元の盆踊り大会と完全開催日時がかぶっていて、今日はついに盆踊り音頭&カラオケが陽気に漂ってきて、お芝居中も聞こえてしまうというガッデムな珍事。しかしこれ、ふるい日本家屋なので窓を完全密室にはならなくて、夜公演もぶじ終わり、色んな友人知人がきてくれていたので畳の部屋でちょっとおしゃべりしたりして、片づけて帰宅。

7.23土
眠るのも体力がいるからまた1時間で目覚めて、ちょっとごそごそして、気づいたらまたソファーの方でめっちゃ変な体勢で寝ていた。しかもなにもかぶってなかったから身体が冷えている。朝方は冷える。早いものでもう今日が最終日。三日間しか本番がない、とはいえ全日2公演なので6回もやることになるのかー。わたし去年お芝居はじめたところやけど、おなじ作品を6公演やるのははじめてかも。お化粧してるときも、着物着せてもらってるときも、もう最後かーとおもうとちょっとおセンチな気持ちになる。昼公演はわりとスムーズに行った気がしたけど、スムーズに進行すれば面白いのかというとそうでもない気もするし、むずかしい。昼と夜の間に、本日のカフェボーイ、漫画家の河井克夫さんにおもしろ演技のご提案をいただきもう千秋楽しかないからためしてみることに(もちろん演出C子せんせも同意の下)どんな提案かというと、奥様にお小言を言われているとき、クレールちゃんはしょぼくれるんじゃなくていちいちイキ顔をしていたらおもしろいのにっていってたので、千秋楽はことあるごとにイキ顔、アへ顔をしてるように努めました。が、それに気をとられてちょっと細かなセリフが何個かつまりました。でも金子さんがうまく続きへ繋げてくれて救われました。千秋楽はC子せんせいのテンションがとにかくすごくって、しょぱなから圧倒される。わたしもそんなC子せんせいにひっぱってもらってテンションあがって、5場の「そりゃわかってますよ、召使だって必要だってこと!」と叫ぶときちょっと泣きそうになっていた。でもそのあとのわたしがゴム手袋で首を絞められて殺されてからのC子せんせいのひとり芝居が、音しか聞こえないのにすごいど迫力やった。ラストのラストわたしはだいじなセリフで噛むし、菩提樹花のお茶を飲んでそれがなぜか飲んでたそばから口からぴゅーっと飛び出て焦った。ばれてませんように。そんなこんなでなんとか全公演が終わり、べランダでお客さんもまじえて乾杯! わざわざ関西から見に来てくれたお客さんや、この三日間で2回も見に来てくれた方が、わたしのお客さんだけでもふたりいて、本当にありがたいと思いました。お越しくださった方、関わってくださった方、お手伝いしてくださった方、金子さん、C子せんせい、本当にありがとうございました。こんな可愛いお着物着せてもらえることも、もう金輪際あるかわからんし、こんなに長ぜりふばかりしゃべりたくるなんてことも、もうないでしょう。たいへんだったけど、本当に勉強になった。終わって片づけ&バラシ。今回裏で関わってくださった方々総動員でみんな駆けつけてかたづけ手伝ってくださっていて、しかもみなさん、漫画家さんやイラストレーターさん、デザイナーさん、放送作家さん、社長さん、名前のある方ばかり、でも偉そうぶらない自ら進んで体動かして手伝って下さる仏のような方ばかりで、それもこれもC子せんせいの人望の賜物やろうなあと思った。終わって、浅草橋の居酒屋で打ち上げ。みなさん、ぱっと見は全然わからないけど、おはなし伺っていたらインテリジェンスな方ばかりで、この『女中たち』すごくしっかり見て分析したりしてくださっててコワ―と思った。オールバックの放送作家Tさんは一見強面やしヤンチャな方っぽいのに喋ってみるととてもマイルドでやさしくて、そして今回のソランジュとクレールの関係性を分析していらっしゃった。それから今回のチラシのデザインをしてくださった、I上N人デザイン事務所のI上社長は、お会いするときいつも男の墓場プロTシャツを着てらっしゃるのやけど実はジュネは全集で読んでらっしゃるくらいの文学青年やったらしく、そんなそぶりは見せないけどこっそりすごくインテリな方やった。たのしくおしゃべりして、終電でだいたい帰ってしまう感じやったので、我らも一旦新宿へ出る。C子せんせい、金子さん、わたし、そしてチラシのイラストを描いてくださったS崎M紀さんとの4人で、新宿三丁目のDという飲み屋で朝まで打ち上げ。お隣の席に某有名大御所ミュージシャンJさんがいてらっしゃった。M紀さん、ちゃんとお話したのは昨日今日だけやったけど、大好きになった! すごくおもしろくて包容力のあるおねえさんである! サイコパスのはなしをしたり、演劇界の生臭い話をお聞きしたり、金子さんの波乱万丈すぎる昔話をお聞きしたり、朝までとても楽しかった。お店を出たらもう6時前で外はすっかり明るくなっていて朝、金子さんは大きなかばん(全部身体につり下げ型)を4つ持ってて、いちばん大きいのはリュックなんやけど、これは小屋入りセットやというのやけど、今回は一回も開けなかったらしー。何が入ってるんですんかって聞いたら、白塗りが二種類と……とか言いだして、今回白塗りなんてしないのに!(笑)なんで二種類も!おもしろすぎる!とバイバイするまでずっと笑っていた。長い一日やったけど楽しかった。

7.24日
さすがに身体的によぼよぼで朝帰りし、そのままバタンと眠りたいのやけどゴロンしてても脳みそは興奮状態のままやからか、一向に眠りに落ちれず、ずっと寝ころんだまま何もせずぼんやりして、昼前に、あっ洗濯だけしないとって身体を起こし、洗濯を干して、またごろごろした。ひさしぶりにポストを開けたら、公共料金の請求書が何枚かと、あと『特選小説』の送本が入っていた。今回で連載エッセイは第三回目「北村早樹子のマイクを握って」読んでね☆