8.3〜9日記

8.3月
東京で目覚める3週間ぶりの朝。だけど全然すがすがしくない。暑いし、さみしいし、つまらない。わたしが帰って来るのを待っていたかのように細々とした事務的なお仕事の確認メールなどがどどどっと来て急に現実に帰ってしまった感がすごい。すべてを一旦見なかったことにして、目覚めたことすらなかったことにして、反則技の再ケミカルで眠る→2時間くらいで起きる→再ケミカルで眠る、という完全にあかん人の行いに逃げる。元々わりとテレビっ子やったはずやのに、テレビつけてもどのチャンネル回しても全然おもしろくない。手を伸ばせば読みかけの本もたくさんあるのに、どれも読むきがしない。どんな娯楽よりもおもしろかったスナック早樹子、探偵団早樹子で遊んでくれていた人々のことを思う。思い出し笑いでちょっとニヤけつつも、ニヤけてるそばからちょっと泣きそうになっている。あの楽しい暮らしはもう二度と戻らない。

8.4火
朝、郵便局に行って送り物をふたつ出し、あれ、忘れかけてたけどそうやった、今日病院の予約の日やん。と慌てて虎の門の方の病院へ。検査検査して流れ作業な診察受けて大量のお薬もらって帰路。そのまま帰ってもまた無理やり寝るだけの病人になるので北千住で降りてみる。暑い。紀伊國屋行って、ここの紀伊國屋品揃え悪いからな〜とか思ってたけど本屋自体1か月ぶりぐらいでちょっと元気出る。ギンティ小林さんの『新耳袋殴り込み最恐伝説』

も発見して購入。なんか本見てたら元気出る気がしてきたのでちょっと遠いけど中央図書館まで歩く。妻有で久保井さんからたくさんエピソードを聞いて読みたくなっていたので唐十郎の戯曲を3冊ほど借りた。薬と本で膨れたかばんを抱いて帰宅。さーごろごろして本読もう、とか思ってたのに急に山積みの宿題のことを思い出し、まずは何をいつまでにやらなあかんかをメモに書き出してパソコンに貼ったら見事に画面&キーボードのぐるりを包囲することになり、うえ〜っとパソコン閉じる。しかし生真面目なわたしは完全にほっぽりだす根性はないので、なんやかんやでピアノを開け、とある歌詞をひろげて曲作り。これは結構前からはじまっていた企画で、某お方に歌詞を書いていただいてわたしが曲を書くミッションなのやけど待ちに待った歌詞が昨日ついに届いて、こういう宿題はやる気がでる。やりはじめると楽しいものでわたしはやっぱり歌をつくるのが好きなんやな〜ともおもう。でも途中で行き詰まって中断。妹から電話で、1時間半ほど喋ってうれしいような心配なような報告を聞いた。

8.5水
起き抜けで朝から、昨日途中で投げた曲作りの続きをやる。本来朝がいちばん元気なわたしなので、いい感じに捗りだいたい曲出来た!デモを録音。一個やったらもうやり遂げたような気になってしまって、読書に移行。唐さんの戯曲『秘密の花園』読む。あんまり戯曲というもの自体読みなれていないし、わたしの貧相な想像力ではたぶんあんまり中身理解できていないのやけど、それでも日本語、おもしろー!っとなった&物語のパーツパーツが本当に美しくって、指の先っちょから垂れた包帯に指輪を結んであげるとかもうその絵だけでめっちゃ感動的やんか!あと何かとめくらとかつんぼとかせむしとか出てきて、かたわもん好物なわたしにはどストライク。春にはじめて唐組のお芝居を拝見したときも、こんなおもしろいものをわたしは30年も知らずに生きてきたのかと激しく悔いたのやけど、こんな好きな世界を今まで触れずに生きてきた自分はなんて愚かやったのやろうと改めて思った。

秘密の花園

秘密の花園

8.6木
昨日作った曲のコーラスを作ってデモ録音。パソコンでちょっと編集して(とゆうほど編集能力もないのやけど)新たな手法を導入しようと難儀してたら大した効果はないのに半日かかってしまった。先方に送り、こちら側のレーベル主にも送る。また妹と1時間ほど電話。心配は募るばかり。そして夕方ちょっと近所に買い物に、ティッシュとか買いたいからチャリで行って、ちょっと停めてたすきに!どうやら自転車ぱくられた!最初は、いや撤去やろう、やられたーておもて即刻撤去自転車事務局みたいなとこに電話したけど、ないと言われ、とゆうか今日はその界隈で撤去作業してませんからね〜といわれ、じゃ、これは盗難ですね。嘘でしょ〜鍵しめてたのに!そういえば、わたしがチャリとめたとき、暇そうな頭弱そうな小学生が4人ぐらいで他の自転車見ててなにしてんのかな〜ておもってたんやけど、もしかしてあいつらか!?あいつらが鍵外しよったんか!最悪や。気に入ってたしあれはちょっと思い出の、大切な自転車やのに。あ〜そして足立区のガキんちょの能力完全に見縊ってた。。。ちなみに、盗難自転車のことを「せっちゃ」というらしいです。漢字に直すと摂車?

8.7金
また朝から妹と電話して、そっから病院。また病院。今日は大学病院の方の予約の日。ああ今週はほんとに病院の予約の予定しかない。あとは家でじーとしている。1週間前までは山奥の舞台で1日中走り回って喋りまくって歌いまくってたので、このエネルギーの消費量の違い!でもまあ、もともとはこっちのペースで生きてきたはずやからな、わたし。病院でせっかく都会に出たので、ついでに新宿に降り立って某バイト先におみやげ渡しがてらご挨拶しにいく。なんと椅子が全部まっかっかのビロードタイプに変わっていてギョッとした。同僚たちとしばし話す。1か月以上ぶりの新宿、思えばわたしは東京に出てきて6年経っていて、その間ずっとこの労働先で働いていたので、すなわち新宿に通っていたので、こんなにご無沙汰新宿状態なのははじめて。人間の量はまあこんなもんやろ〜これぐらいはおるおるおったおった、て想定内やったけど、帰りしなまあまあ混雑した電車に乗り、人間の皮脂の臭いに衝撃を受けた。臭い。臭すぎる。これはただの汗の臭いではなくて、ほんまに脂の臭い、人間の脂の臭い、きっと妻有の人からはしない臭い、食べ物かな?あとストレス?都会で働き都会で暮らす心身ともに薄汚れ疲れ果てたの人の内臓の奥から滾ってくる臭いなんやと推測。臭いけどなつかしい。というか今まであまりに当たり前に臭いすぎていて特に気にもとめていなかったけど、ご無沙汰して嗅いでみるとすごく、なかなかに強烈なかほりや認識。でもここだけの話、わたし臭いものは嫌いではないので(嫌いなものもあるけど)、これはこれでおもしろいかほりのエンターテインメントなんやと捉えることにします。

8.8土
朝からお手紙を書いて投函。その後ちょっと某案件でひと悶着し、苛々しつつもあーこの苛々もなつかしい。そうそうこの人はこういう人やった。こんんなことで怒ってしまうわたしの心が狭いのやわ、て思い直せど3週間ほどブランクがあるので、なんでこんなことでこんなストレスを受けねばならぬのか!とつい鼻の穴を膨らませてしまった。妻有でも、それなりに理不尽なことやら大変なこともまあまああったけど、こういう類のストレスはなかったし、わたしはあっちでは本当に24時間×3週間の間ずっとお芝居に参加している人間としてだけ存在していればよくって、余計なことは考えなくてよくって、だからあんなにきゃっきゃとたくさん笑っていられたのであろう。東京では、現実では、余計なことばっかり考えねばならない。人里離れ、現実から離れられるというのはとても恵まれたことなのやと今更思う。夢のような、という言葉は嫌いなのやけど、本当に夢のような時間やった。これは2月にC子せんせいの劇団SWANNYに参加させてもらったときもそやったけど、お芝居って終わってしまったあとのあの夢から醒めてしまう感がすっごくつらい。2月のときもしばらく泣き暮らしていた。一定期間毎日顔をあわせて、お稽古をし、一緒にごはんを食べたりして過ごしていると、自分は孤独な人間やということを忘れさせてくれてしまうから、あかん。お芝居がおわると、わたしはただただ現実の中に帰り、24時間孤軍奮闘せねばならず、そして余計なことに悩んだり怒ったりしなければならない。ちょっとずつ東京での暮らし方を思い出してきた。国語の宿題をひとつ頑張った。

8.9日
昼から打ち合わせで高田馬場へ。高田馬場、降り立ったのたぶん3回めぐらいやけど、意外と都会やん。ドンキホーテあるんやん。妻有での反動でドンキ的な混沌を大変欲していたので帰りしなちょっと寄ろっておもいつつ、国語の分野でお世話になっているM井さんと、新たにお世話になることになるH中さんでエクセルシオールでミーティング。H中さんはわたしがまだ大阪でただの本が好きなだけの地味な学生やった頃から名前は知っていて東京にきたら絶対行こうって思っていた書肆アクセスて本屋さんの方やって、まさかこんな感じでお会いできるとはって感じ。おはなしは楽しく盛り上がり、H中さんは次のご用事へ行かれてM井さんとメルマガの打ち合わせ。M井さんからまさかの超うれしいものをいただいてしまって大変感激。ジョン・シルバー、かっこいい!しかも横尾忠則絵のやつ!いや、これはご褒美の前借やと思って、ちゃんと宿題を頑張らないといけない。夜帰宅して、急遽明日アルバムレコーディングの仮歌録り全曲、という過酷なミッションが勃発したので自分の曲を復習してさあ寝よかなとおもたらM井さんからお電話で、ちょっとすごいうれしいお仕事の話をいただいてしまった!ひゃほう!しかし宿題がどんどん増えている、全部国語。がんばれるかなわたし。。。

あ、宿題の一環でもある先月末からはじまった、北村読み物メールマガジン【北村早樹子の「そんなに不幸が嫌かよ!」】、毎月月末に配信。無料です。エッセイやコラムや読書日記やアダルティな小説の連載など。登録はこちら、創刊号のバックナンバーも読めます→http://www.mag2.com/m/0001664038.html